今回はちょっと俗っぽい/キャリアの記事となっておりますが、あまりVC側の議論や記事などがないなと書いてみた。
人生においてもキャリアにおいても何が正しいとかはないが、比較的若い年齢でこの業界に入ってどういう可能性があるのかに残しておくことは、VCキャリアを考えている人などになにかしら残せるものがあるのかもしれないと思っている。ぜひそういった方々へ参考になればいいなと思っている。
起業家のセカンドキャリア
日本においてスタートアップやVC産業というものは昔からはあったが、業界が急速に発展していったのはここ10年ほどなのではないか。いま自分が勤めているANRIも5億円ほどの1号ファンドからはじまり、いまは300億円規模の5号ファンドまで成長することができている。他ファンドも同様に大きくなっていっており、VCのファンドサイズやVC投資額というのは年々増えてきている。つまりVC-backgroundな起業/起業家も増えてきている。
そういった中で、起業家がどのようにセカンドキャリアがあるのかについて昨今いろいろ議論がされてきている。個人的には下記記事で書いたようにM&A含めて活性化することによって、起業家という特殊なスキル・キャリアをもった人を有効活用していくことが次のユニコーンに繋がる感覚はあり、こういった流れがよりでてくることを期待している。
VCのセカンドキャリア
そういった時に、VC側にいる側の人間としてもVCで働く人数が増えているという現象がある。若手VCという言葉が自分が6-7年前ほどにこの業界に入ったときには、10人ほどぐらいしかあまりいなかった気がするが、この数年の中でより多い人数の人がこの仕事に就いている感覚がある。しかしよく目にする人は変らなかったりすることもある、つまり辞めている人も多いということだ。
そういった時にキャリアとしてどういうものがVCのセカンドキャリアとして有り得たのか、あり得るのかということについて少し記載をしていくことで、今後VCというキャリアを考えている方にも、今VCをやっている方にもなにか少しでも思考をする補助線になるのではないかと思い、この記事を書いている。
VCのキャリア構築の困難性
どういうキャリアがあるのかを考える際に、このベンチャーキャピタルというキャリアの異様性について前提について書いてみたい。”キャリアは会社ではなく、職業だ”ということを中心に考えると、Sales/Marketing/開発などと同じようにVenture capitalというの職業でもあるように思える。しかし難しいのが、どこのVCに所属しようと投資するフェーズやファンドサイズや投資方針などは違うが、ほとんど同じを仕事することになることが異様な点である。
そしてそれは個人に紐づいていることがある、自分を商品として見立て、仕事をするため、どこに所属するかは重要ではあるものの、ではキャリアアップという概念で大きな会社にいけば大きなことができたり、また小さな会社にいけば自分の裁量権をもてるとかそういった一般的にキャリアについて考えるような意思決定が取りづらい。
会社に勤めていながらも、半分傭兵のような仕事をしているのがベンチャーキャピタルという仕事なのではないか。それは逆に常にキャリアを考えなければならないし、上記のような一般的な比較軸を元にキャリアを考えていくのも難しい。
フィードバックループの長さが異常に長い/失敗が先に来る
また業界にいる人から一般的に言われる話だが、投資をしてから自分の仕事が本来的に価値をだしはじめるまでが異様に長い。特にシードあたりなどから投資している場合はよりである。なので自分がこの仕事において向いているのか/価値を出せているのかにおいてずっとつきまとう。また投資をしてから成功していく企業(それも正直判断が難しいのだが)も資金調達をしていくが、失敗する企業のほうが先にわかってくる。そういった意味でも常人であればプレッシャーを非常に感じる仕事である。
今の自分もまだその負の感情は付き合っている。もっというと例え成功した1社がでようと、再現性がないようであるようでないかもだけどちょっとはある仕事なので、このキャリアに向き合い続ける限りこの不安さや憂鬱さはずっと付き合わないといけない仕事ではあるかもしれない。
分かりやすいスキルは身につきづらい
これはどの仕事/キャリアでもそうだが、いま自分も仕事をしていて分かりやすい専門性やスキルというのは身につきづらさを感じる。例えばスタートアップ経営がわかるかというと、口が裂けても経営がわかるとは自分は言えない。もちろん近くでみて、共通項やアナロジーから基づくアドバイスができることは身につくかもしれないが、本質的に経営をしているわけではないので、経営が身につくとは全く思わない。
Finance的な観点が身につくかというと、もちろんその知識は必要だが、PEファンドやヘッジファンドのFinanceリテラシーが100だとすると、特に自分は5-10ぐらいしかないと思う。もちろんもっとリテラシーが高い人はもちろんいるが、構造的に上場企業に向き合ったりや市場と対話するような仕事を毎日している方々と比較すると、身につきづらい。
あえていうのであれば営業的スキルというのは身につくのかもしれないし、人間力みたいなのは求められる仕事だが、言葉にするとダサく聞こえるし、それを身に着けました!なんて恥ずかしくて言いずらい。
と、卑下だけをしても仕方ないので、本当に重要なスキルとかキャリアというのは履歴書に書きづらいことではある気はしており、投資先の修羅場と向き合い方や、人間関係構築能力や、事業分析の考え方、ビジネスDD、上場に向けたガバナンス、人の見方など言葉にしずらいし、履歴書には書きづらいがそういったことは日々ずっと学んでいるし、考え続ける仕事だとおもうので、大体の重要な仕事はそういうものな気もするので、いろいろ身についてきているとは思う(とそう信じたい。)
しかし、冒頭に書いたように何のスキルが身についてそれがどのように転用可能なのかにおいては、説明がしずらいものではあることは変わらない。
セカンドキャリアのオプション
ということで、上記を踏まえてまた個人的に他の方々がどういったセカンドキャリアを歩んでいるのかを見ながら整理すると下記のようなキャリアは考え得るものではないかと考えていることを記載したい。重複だがキャリアには正解なんてないので、一参考事例として読んでいただければ幸いである。
・VCとして独立ファンドを創る/CVCを組成する
これは分かりやすい。VC起業だ。1つキャリアのゴールではないが、ベンチャーキャピタルを創るというのはキャリアとしてはある。GPとしての役割と報酬体系/リスク・リターンと、その他では圧倒的に違う。それは当たり前だ、その人達の与信でお金を預かっているからである。
企業において代表が株を多くもつのと同じである。スタートアップで勤めている人において、いつか起業も考えているという方も少数ではないとは思うが、それと同様にVCにおいて働いている方は頭にこのオプションがある人は少数ではない。
ファンドとして様々なテーマや哲学/思想で独立していくことは多様な起業家や生態系を生むはずなので、独立していくことは良い流れではある。一方起業も当たり前だが、そう簡単にできるものではない。より起業より困難なときはある、最初から資金調達をしないといけないというか、プロダクトも何もなくお金を集めないといけないので、より大変ではある気もしている(自分は独立したことはないので、本当にはわからないとは思うが)
どのみちこれはわかりやすい、今やっているVCという仕事で独立するだけだ。こういった意味においては弁護士などの士業のキャリアに近いのかもしれない(弁護士事務所や税理士事務所ほど数が多くあっても需要がない可能性は高いが・・)
・他のVCやCVCに転職する
これもわかりやすい。他のFirmに移って投資をするというものだ。普通のキャリアだとこれが一般的なセカンドキャリアというか転職だと思う。同じ職で他の会社でやるというもの。CSで他の会社にいく、Sales/Marketingで他の会社に行くみたいなものだ。
ただVCにおいては、もちろん自分も含めてあるが、そこまで1番一般的なキャリアパスかというとそうでもない気がする。これは前述したように結局転職したとしても、もちろんフェーズの違いやファンドサイズの違いによる投資方針の違いなど多くあるが、やるJobは同じだからである。それならば既存のところでもと思うはずだし、一般的にこれがキャリアアップに繋がってない感は正直ある。
ただし例えば外資系VCにいって、そのナレッジを活かすや、レイターのファンドにいって大きな金額を動かすや、CVCにいってそのアセットを活かすなどふくめて既存のVCでは出来ない勝負をしかけられるみたいな可能性は大いにあり得る。
書きながら思ったがもしかしたら今後はこれを増えるのかもしれないとも思えた。ファンドにおいて差別性がなかったからこそ、ファンド間の転職が少なかったが、今後どのファンドも色を出していくことがより10年前などに比べると更に求められるはずであり、その結果VC間の転職というのは増える可能性はある。
・スタートアップに転職する
この選択肢は多いような実感がある。どうしても近くでみていて、事業が好きな人になればなるほどVCをするか起業するかみたいな感覚で見ている人が多い。金融業ではあるが、性格的には事業家気質な人が多いのがVCの特徴なのではないか。
そのため、事業家気質の面が強くなっていくと自分でやりたくなってくるというのは非常に分かる。事業をやりたくなったときに、自分の好きな投資先や企業に出会いやすい職業ではあるので、タイミングがあうと事業側にいってしまうことは理解出来うる。
VCをやって関わることがスタートアップに関わっているではないか?と思う方もいるとはおもうが、個人的には例えば投資先がピンチのときに自分がいくらがんばっても正直投資先の伸びにはそこまで関係なかったりすると捉えている。(もちろん追加投資や、資金調達のネットワークをつなげるなどいろいろするが)
あくまで投資家という立ち位置からしか応援できない/関われないということが分かってきた時に、自分でKPIを動かしたいという欲をもつことは理解できる。そういう意味においても事業家マインドが強いと、スタートアップや事業に関わりたくなる気持ちは分かる。
・起業する
これも上記のスタートアップへの転職に近いものではあるが、VCでなくスタートアップを起業するというキャリアも存在する。VCのネットワークというのは一通り持っているし、VC-backgroundな起業をするには非常に適したキャリアにはなる(もちろんネットワークがある/友人だから投資をするなんて単純なことではないが)
VCの経験が起業に活きることはあるだろうが、直接的には関係ないぐらいと正直自分は捉えている。ネットワークは活かせるとはおもうが、具体的に事業を組み上げる経験は起業しないとわからない(当たり前ではあるが)
ただEIR的なVCをやりながらテーマを探すみたいなキャリアパスも更に一般的になっても良い気はしている。特にこれまで下記記事でも書いてきたがBig issueの時代が昨今迎えつつあると個人的には思っているので、そういった意味においてもリサーチしながら投資もしながら、起業も考えるみたいなのはちょっと建て付け的にセカンドキャリアというよりは、そもそも起業を目指したVCとかは増えてもいいのかもしれない(特にGP以外で)
コラム:起業経験はVCに必要か?
新卒VCどうか議論・起業経験VCに必要議論・投資先or支援先呼び方問題議論は、個人的にたまに議論にあがる3大論点である。ただ非常にどうでもいい論点だと思っている。そんなの成功するパターンもあればないパターンもある以上。だと思っている。 自分も25歳からVCなのである意味自分を肯定したいためのポジショントークかもしれないが、まあこういう議論は答えがない(各々のポジショントーク以上)ので無意味だと思う。
なので起業経験してVCに帰ってくるとかがいいのかなと自分は昔考えていたが、それは理解できうるが、個人的には今はオススメしない。役割が違うからだ。やりたいことをやったらいいし、結果論としてそうなるキャリアは起業家にも役立つだろう。ただ打算的にそういうキャリアは描かないほうがいいのではないかと思う。(といいつつすべてはポジショントークなので、この発言こそ老害っぽさはあるのかもしれない。。)
増えてほしいセカンドキャリア
今までは上記はこれまでにて多かったセカンドキャリア・キャリアパスを記載してきたが、今後増えてほしいなと考えているキャリアについて記載してみたいと思う。後述するが結局キャリアは流転していくことによって、エコシステム全体が良くなっていくはずなので、より多様なセカンドキャリアの可能性を見出していくことが、全体の成長になるのではないかと考えている。
・CFO/IR
結局はVCは投資先の営業であるし、起業家への営業である。そのときにCFOやIRは自社を市場に対して営業していく役割であると捉えている。なので実はVC出身のCFOっていうのはもっと増えてもいいのではないかと考えている。
そうして更にその知見をもってVCにまた戻ったり含めて、CFOが日本に足りてない感覚もあり、未上場の営業はVCキャリアの延長でできうるかもしれないが、上場後の営業も含めて経験した人がどんどん増えていくことはエコシステムにおいても大事なのではないか。
・大企業新規事業部門orM&A部門or上場後のスタートアップの買収責任者
昨今話題にも上がっているが、M&Aが今後より起こしていくことが日本のスタートアップのエコシステムにおいて重要であることは明白である。ただスタートアップ側やVC側の道理を理解したうえでそれを進めていくことができるためには、そういった部門に対してVCのセカンドキャリアとして転職していくことは業界のエコシステム成熟においても繋がると思うし、先方からみても重宝されるのではないかと思っている(かといってM&Aの経験が多いVCも少ないとおもうので、本当にJob descripition上はキャリアジャンプ必要かもだが)
・海外VC
何名か現在でも海外のVCなどに転職をした方も知っているが、そういった日本のネットワークやスタートアップの現状を理解した方が、海外のVCなどに転職し日本のスタートアップへのアテンションを上げる作業みたいなことも重要なのではないか。
昨今のデカップリングの流れからも、USの資本などが日本にもう少し流れ込んでくるような期待感は現状はある。(市場の大きさを考えるとそこまでこのシナリオが劇的に普及するわけではないと思うが)そういった動きを加速させていく役割というのは担える人はいるのかもしれない。
・上場株を扱うファンドへの転職?
ちょっとざっくりしているがヘッジファンドなどもありえるのかもしれない。これこそキャリア的には少し外れているが、未上場のValuationの感覚とうまく上場後のValuationの感覚を調整していく必要があるきもしており、そこの投資家間のつながりが今薄いのではないか。VCにとってIPOなどは一つのゴールではあるが、スタートアップにとってIPOはさらなるスタートではあるので、うまくそのあたりの知見の融合が起きることはエコシステムにとっても効果的であるように思える。
・お金の流れを変える文脈づくり/編集者
これは正直自分のやりたいことにも近いので、自分がセカンドキャリアを考えるとしたらこういった流れみたいなのはつくってみたさはある。VCというのはお金の流れを変える役割だと認識していて、そういったお金の流れを変えることによって大げさにいうと社会創作が出来うる可能性があると思っている。
そういう意味において社会の編集者みたいな役割の一部を狙える感覚はある。このキャリアはどういう仕事なのかも全く想像つかないが、例えば漫画の編集者とかにVCの人がなると非常に面白い気もしている。もしくは、大学や政府関係者としてセカンドキャリアをはじめるとかあるのかもしれない
色々VCのセカンドキャリアについても考えてきたが、まあ結論どのキャリアにおいても正解なんてものはなく、VCのキャリアを考えている人とかに何かしらヒントになればいいなという思いと、改めてどういったことをキャリアで考えればよりエコシステムが良くなるのかみたいなのを抱きつつ書いてみた。
結局は様々なキャリアで、スタートアップを応援したいという気持ちは全員が必ずあるはずなので、その職務を果たしていくことによって日本のエコシステムが良くなっていくのではないかなと。なのでどれがおすすめとかそういったこともなく、行ったり帰ってきたりしてもいいと思うし、キャリアは流転していくことで、全体の底上げができていくとよいなと記事を書きながら思えた。
自分もVCに勤めている身として常日頃気にしながら目の前の投資先や投資候補先に向き合いながら面白い未来が創れるように頑張りたい。